【勝利依存症】トップアスリートの病

荻原魚雷著  書生の処世 P12】

最近、ゴーガンティ・ウィリアムソン著『トップアスリート天使と悪魔の心理学』(影山みほ他訳、東邦出版)という本を読んで、いろいろ考えさせられた。いわゆる、一流のスポーツ選手たちは「勝利依存症」(しょうりいそんしょう)あるいは「競争中毒」というような症状を患っていて、(わずらっていて)ときに、疲労骨折するまで練習してしまうのは、ある種の「病気」のせいだと指摘する。彼らが、人並み外れて「努力」するのは、「向上心」ゆえではなく、自分に「微罰」とおもえるくらい過酷なトレーニングを課さないと「不安」になったり、「気持ちわるくなったり」する傾向があるらしい。勝利を得ることで、その「不安」は解消されるが、その戦いは現役を「引退」するまで続く。そんな『勝利依存症』のアスリートは、現役引退後、家庭が「崩壊」したり、「薬物中毒」になったりする傾向があるとも......。たとえば、あるサッカー選手は(自分は親から愛されていないといった)不安をまぎらわせるため、常軌を逸した(じょうきをいっした)反復練習を自らに課し、フィジカルの強さと、卓越(たくえつ)したボールコントロールの「才能」を身につける。同時に、「人格」や「社会性」に「問題」を抱え、「人間関係」その他がうまくいかず、しょっちゅう「トラブル」を引き起こしたり、「奇行」(きこう)に走ったりする。昔、ある精神科医が一流のスポーツ選手の「心の病」を治療したところ、症状は改善されたかわりに、『平凡』な『成績』しか「残せなくなった」という話を聞いたことがある。
荻原魚雷著  「書生の処世」より抜粋 〉