狭き門 アンドレイド・ジッド

マリアの、部屋に、久しぶりに、招待された、僕が、まっさきに、目にしたのは、彼女の、本棚だった。そこには、以前、僕らが、かわりばんこに、朗読した、書物は、ただの、一冊も、残されておらず、くだらない、陳腐な、宗教本の、背表紙が、ずらりと、並べられていたからだ。

「あら、どうされたの、そんなに、驚いた顔を、されて」

ふいに、出た、マリアの言葉にも、勿論、僕は、ショックを、受けた。

「君は、いつから、こんな本を、読むように、なったんだい」

「あなたと、一緒に、読んだ、ご本たちが、なくなっていることに、驚かれたのね。そう、最近、わたし、気づきましたの。たしかに、パスカルも、カントも、素晴らしい言葉を、残されました。ただ、私は、そんな、たいそう、偉大な言葉を残された、方たちの、ご本よりも、今の、つまり、この本棚に、並べられている、ご本たちのほうが、よっぽど、主に、そった考えを持って、しっかりと、土壌に、根を、生やされているということに、気づきましたの」

「何故って、ここに、並べられている、ご本たちは、皆、自分たちの、値打ちというものを、きちんと、わきまえて、生きてらっしゃるの、そう、自分たちは、なんの、力もなく、取るに足らない、無力な、存在であることに、きちんと、気づかれた上で、生きて、らっしゃるの。幾分、自分たちに、値打ちが、あるとすれば、それは、主の、見前に、立って、そう、主に、低く、頭 (こうべ) をたれて、主を、賛美するときだけ、幾分、自分自身に、値打ちがあるのだということを、よく、理解されて、生きて、らっしゃるの」