ユーリ

僕らは、それから、二人だけの、誓の言葉をたてた、いつか、僕ら、ここではない、別の場所で、必ず会えるさ、と、それまで、目の前のことにキチンと向き合い、とにかく前を向いて、しっかりと、生きていく。それから、僕らは、口づけして、別々の場所を歩き出した。少し、サイズの合わない靴を、引きずりながら、お互いは、背を向け、真逆の進行方向へと、進んでいった。

その時だった、背中に激痛が走り、僕は、目の前に、四つん這いになり、倒れていた。そう、彼女が、真後ろから、僕の背中にドロップギックしていたのだ。彼女は、真顔で、僕を見つめて、「カンセイトウ」と、口にした。僕も、キョトンとした顔で、「カンセイトウ」と、口にした。彼女は、くるりと、また、後ろを振り返り、カンセイトウ、カンセイトウ、カンセイトウと、言いながら、そのまま、僕を背にして、どんどん、小さくなっていった。結局のところ、一度、愛し合った男と、女が、別れていくには、痛み、というものが、そこには、生じるものなのだ。そう、彼女が、その、憎まれ役である、ドロップキックを、苦しまぎれに、あえて、僕の背中に、食らわせることで、そう、僕が、少しでも、その痛みで、彼女のことを、嫌悪して、そう、彼女のことを、忘れやすく、するために、あえて、嫌われ役を、演じてくれたというわけだ。それから、僕も、むっくりと、立ち上がり、夜空に散りばめられた、満開の星をみあげながら、カンセイトウ、カンセイトウと、言いながら、新しい道を、歩きだした。

そのとき、ふと、カキツバタ アヤメ科の、花言葉を、思い出した。

「どんなに、離れていても、僕らの、心は、変わらない、いつかまた、遠い場所で再会しよう」