カキツバタ アヤメ

床に落とした、シャープペンシルを、彼女は、ヒョイと、拾いあげ、僕の机に、ことりと、置いた。礼を言おうとした、僕を振り返って、彼女は、そのまま、自席に戻った。

その日の晩、僕は、奇妙な夢を見た。なんと、シャープペンシルを、拾い上げてくれた、彼女が、夢の中に、現れたのだ。そして、彼女は、僕に、こう告げた。「2年B組、カキツバタ アヤメ」と。そして、昼間同様、くるりと、振り返り、ツカツカと、足早に、歩き去って行った。

そして、僕は、この件に関して、つまり、彼女が、僕の席に、シャープペンシルを、拾い上げてくれた件に関してなのだが、そう、僕は、今一つ、理解できない点があった。それは、もう、このクラスになって、2月期半ばを、過ぎようとしているのにも関わらず、その、カキツバタ アヤメなどと言う子を、一度も、僕は、クラスで、見かけたことが、なかったからだった。ただ、もう一つ、奇妙な点があった、それは、彼女が、つまり、自称、カキツバタ アヤメが、僕の席に、シャープペンシルを、置いてくれたときは、その、彼女が、不思議なことに、いつも顔を合わせるクラスメイトに、思えていたのだから。