とある、男女の、別れ

それから、僕らは、別々の道を、歩き出した。彼女は、今まで、勤めていた、出版会社に、残り、僕は、厚生社の、派遣労働事務員を、退職した。そう、少し、自分なりに、俗世間と、距離をとった、生き方を、してみたいという、今まで、考えたことすらなかった、思いが、僕の頭のなかに、突如、湧き上がってきたのだ。そう、自分なりに、もう一度、これからの、生き方を、そう、もう一度だけ、リセットして、考えなおしてみたいと、思うように、なったのだ。言われてみれば、僕は、いつも、セカセカと、働いては、彼女の、ご機嫌ばかりとった生き方を、していたもんな。考えてみると、自分が、望んでいたことは、いつも、後回しにしていたもんな。

 

つまり、こんな考えが、僕の、頭のなかから、突如、現れてきたのは、つまり、これは、彼女との、別れにより、また、新しい、僕の道が、そう、主より、用意されたというわけだ。

 

そのかわり、今まで、以上に、できるだけ、身の回りのことを、そう、丁寧に、日々コツコツと、こなしていくという、自分なりの、ルールを、かせた。というか、その頃の僕は、そうでもしないと、とてもじゃないが、やっていけない、そう、つまりは、そういう、精神状態だったのだ。

 

そんな日が続いた、ある日、僕に、落とし物を、届けに、来てくれた、市民図書館の、とある、職員がいた。そう、僕は、いつも、その図書館では、借りた本を、延滞してしまう常習犯でもあったので、つまり、とても、有名だったのだ。彼女は、少し、はにかみながら、僕に、落とした、ハンカチを、手渡してきた。僕は、わざわざ、アパートにまで、届けてくれた、お礼を、丁寧に彼女に伝え、ドアを、閉めようとした瞬間だった、

 

 

 

 

突然、彼女が、ドアを、さえぎるようにして、

 

 

 

 

こう、僕に、伝えてきたのだ。これ以上、本の、延滞が、続くと、こちら側が、いくら、本を、貸したくても、貸せなくなると、僕に、そう、伝えてきたのだ。それで、僕も、勿論、図書館で、本を、今後、借りることが、できなくなるのは、生活上、困るので、これからは、できるだけ、延滞前に、返すと、丁寧に、謝罪した。その時の、彼女の、表情は、なんとなく、僕に対して、腹を立てているように、見えた。

 

 

 

 

結局、今だに、なんの縁かは、わからないが、彼女と、つまりは、その、図書館の職員と、奇妙な、同棲生活が、スタートした。そして、次第に、僕は、彼女に、心を、惹かれていった。

 

だからといって、決して、前に、付き合っていた、彼女のことを、忘れたわけではなかった。そう、僕の、心の中に、そっと、彼女と、僕が、共に過ごしてきた時間、想い出、共に、歩んだ道のり、そう、そんな、ちっぽけではあるが、そう、つまり、彼女と僕の、二人だけの、想い出の、小さな、部屋を、そう、勿論、今付き合っている、彼女には、内緒で、そっと、こしらえることにした。